オーダーで思い出すこと

オーダーのご依頼が多くて、お客様にご迷惑をおかけしている。
たいへん心苦しい。

創作は、もともと好きなので、いつもぞくぞくするくらい楽しい。

自分流は、納得しないと、即、やり直ししてしまうものだから
待たされる側はたまったものではないだろうなあ…といつも思う。

お客様側から見れば、ただ、時間ばかりの経過が目立つことだろう
と、心が痛い。

昔、趣味の自転車で、
あきれるほどフレームをオーダーしては、散財していた。

ある日、憧れだった日本一と言われる職人集団に
清水の舞台から飛び降りて、注文をおこした。

夢を描きながら、何度も何度も設計しなおした。

シートチューブが何mm、トップチューブが何mm、角度が何度 etc
と、自分の特殊な体形似合わせ、細かく細かく指定しお願いした。
一言もなく受け取った。

仕上がりの予定を聞いて唖然とした。

「1年は、お待ちくださいね」と鼻からくじかれた。
そう…まあ、納得のいくものが欲しいから、どうぞよろしくと頭を下げた。
1年、ワクワクしながら待った。

予定日が過ぎ、1ヶ月が過ぎ、3ヶ月が過ぎ、半年が過ぎ
少し記憶から薄れていた。
ワクワク感はどこかに行ってしまっていた。

ついに連絡する。
「どうなっていますか」
「あ、できていますよ」
あまりにもあっけなく完成の返事だったので、拍子抜けをした。

フレームの完成までにと、関東一円をたずね歩き、
集めたオールドパーツを
組み立ててみると、とんでもない事実と直面するのだった。

なに!
ペダルが前輪と接触する…

スポーツ車には、当たり前のトークリップと言う金具が付属する。
なんとそれが、前輪の泥除けとぶつかるのだ。

試しに試運転をしてみると、みごとにカーブに差しかかると
足をとられ、こけた。何度もこけるのである。

ワクワク感どころの話ではなかった。
1年半以上待ったあげく、半年分の給料が飛んでいく…のである。

日本一の職人なら、なんで一言、言ってくれぬのか…
ふっと心をよぎった。

お客様からクレームをいただくときは、
いつもこの昔話を思い出してしまう。

ちゃんと職人としての義務を果たしただろうか…
やれることは、なかったのだろうか。