故郷

四半世紀前、下町に引っ越してきて驚いたことが三つあった。

一つ目は、引っ越した翌朝、水を飲もうと蛇口から勢いよくコップに水を注ぎ、口にしようとした。
朝の光が差しこんで持っていたコップの水を朝日が透過した。
目に映った水道水、それは、白濁して見えた。

しかも水中になにやら不純物まで浮んでいる。
コップが汚いのかとあわてて捨てた。コップをよく洗い、今一度水を注ぎなおし入た。も一度、朝日にあててみた。
ぷかぷかしている。
おまけに異臭までわずかにする。
「どぶの臭い」正直なところだ。これが悪名高い(かった)金町浄水場の水だと後で知った。

二つ目は、鼻毛がとにかくよく伸びた。手入れをしていないと1ヶ月もたつと、ダメ親父の如く状態になってしまう。鼻毛を切るということを始めて経験した。

三つ目は、近くにあった小学校の校庭の狭さ。さらにその狭い校庭をカラフルなカラー舗装して、滑りやすくしていることだった。
よほど私立の裕福な学校なのかと勘違いした。

ここで全力疾走でもしようものなら遠心力がかかって弾き飛ばされ、校舎に張り付いちゃう?と思った。このトラック、急カーブだもの・・・。
転んだら「エーン痛いよー」では済まないだろう・・・
競輪選手だってヘルメット被るっていうのに。

自分の子供が生まれるまでには、水が美味しく、転んでもひざ小僧をすりむく程度で済む、土の校庭のある学校に行かせよう。
心底思った・・・

が、今に至るも下町にどっぷりつかっている。

脱出計画が頓挫しているあいだに環境はどんどん変わっていった。
水道水は改善され、ミネラルウォーターにひけを取らないというほどによくなった。
鼻毛もいつのまにか伸びるのが遅くなった(加齢のせいとは思わないし思いたくもない)。

残されたのは緑の問題。
ヒートアイランド対策でビルの緑化が義務付けられた。
都知事の肝いりで、公立学校の校庭を全面芝生にしていく計画が持ち上がった。これはすばらしいと思った。これで子供も表に飛び出すだろう。

東京はどんどん進化し住みやすい環境に変化してきている。
そしてどんどん故郷になっている。