ボーリング

お店から見える光景だ。

まん前のビルが耐震強度の関係で立て直し工事に入って2ヶ月、ようやく解体工事が大まか終わり、基礎工事のためのボーリング調査が始まった。
朝気づくと櫓が組まれてトントン小刻みな調子で鉄柱が地中深く埋設されていく。
面白くて開店準備の手をつい休めて見てしまう。

僕の昔の仕事でさんざん見てきた光景だ。
ただし、縦のボーリングではなく、横、つまり水平ボーリングなのだけれど。

「どうですか、いいもの出てきますか?」
つい職人に声を掛けてしまう。

仕事中なのに変なこという奴が来たぞ。

胡散臭そうな面持ちながら、近所の人間には冷たくはできない。
仕事の手を休めて答えてくれた。
「何にも出てきませんや」

かまわず僕は、
「ここは1400年前の歴史的人物の邸宅の跡地なんですよ」

それがどうした。という顔で、
「僕らの仕事は地中深いですからね(関係ないよ)」

解ってますよ。
と心で思いつつもちょっとその道の人間っぽく、

「コアを取っていたよね、沖積層は30mくらいあるの?」
「岩(がん)は出るの?」

ちょっと知っていやがるなという顔になった。

「砂利層だね」

仕事を多少理解していると思ったようで、急に打ち解けてくれた。
職人のもつ共通した感情だ。

「歴史的な土地なんですね」
さっきまで鼻にもかけなかった僕の話題を思い出したように口にしてくれた。

「土師中知という偉い人の邸宅だったのよ」

「そうですか。注意してみますわ」

願わくば、調査中に何かしら見つかるといいのにな・・・