この日記を書いてからもう5年を越えている。
時の経つのは実に速いものだと改めて驚いている。
5年前の6月頃に引き受けた仕事は、観音菩薩の製作だった。
その観音菩薩のモチーフとなったのが、施主さんの実のお母さんをモデルの仕事だった。
ほぼ同年代の施主さんのお母さんであった。
昭和30年代前半当時の標準的な普段着であり、代表的な姿、割烹着(かっぽうぎ)を着て、おんぶ紐で子供を背負う「日本のお母さん」なのだった。
「このように彫ってください」と依頼され渡された写真を見るなに熱いものが止め処もなくこぼれた。
気づかれてはならじと苦慮した。
昨日のことのように思い出す。
そのお客様の再度のご依頼で、千手観音をご依頼いただいた。
今回も独特の仕様で彫ることはもちろんのことだった。
施主さん、つい最近大きな病気をしたのだという。
しかし、すれすれのところで死線を免れた。
俗に言えばあまりにもついていた。
しかし彼はそう考えなかった。
観音様の手が彼の手をひいてくれたのだろうと考えた。
そのお礼参りとして、お姿を彫刻するということ。
すこしでもそのお手伝いできることがとても嬉しい。