昨日のお客様、77歳喜寿のお祝いのお返しにと、塗香(ずこう)と塗香入れを十数人分お求めいただいた。
商品を選ぶにも「見えないので手に触らせて」と初めて全盲であることに気づかされるほど若々しく、足元もしっかりされていた。
商品を包装している間、こんなエピソードを聞かせてくれた。
「以前殿方に塗香を差し上げたら、とても喜んでくれたのよ。
いい香りだと言ってずっとポケットに入れてくださっていた。
同じものを何人かの若い女性にお見せしたけど、「なにカレーみたいな匂い!」って毛嫌いされたの」と笑いながらも日本文化の衰退にやや危機を感じ気を落とされていた。
「眼が見えないってことはいいこともあるわ」
片目の僕には奇異に感じ聞き返した。
「眼が見えないと自分の老いた姿を見ることもないし、耳が眼の代わりになってくれて相手の心が読めるようになったのよね。人間の体って凄いと思ったわ」
さらにこうも付け加えてくれた。
「全盲のお友達が道案内してくれるのよ。そこ危ないよ。もうすぐ右に曲がるよ。とかね。どうして解るのかしらと思うけど、にわかめくらの私には解らない五感をお持ちなのよね」
と、微笑みながら応えてくれた。
僕は、(いえ。あなたの心はもっとすばらしいですよ)
と心の中で応えていた。