渡す

御年94歳という。

30年以上のお付き合いだから・・・そう。始めてお目にかかった時は還暦をちょっと過ぎた頃だったというのか・・・・驚きだ。

去年の末に92歳になるお客様が、もう来れなくなるからとご挨拶に来てくれたばかりだった。

そして昨日。

何をお伺いしても、「はい」軽く笑顔をして会釈するだけ。
耳の近くで「あのね・・・」でようやく理解していただける。

頭がすっかりね・・・とちょっと寂しそうにこたえられる。

子供時代から長女として何人もの兄弟たちの面倒を見、戦後のドサクサの中、子供たちを抱え、小規模ながらも会社を補佐し、切り回してこられたことを知っている。

たしか大柄だったはずなのに・・・

すっかり縮んでしまった。

お体お元気そうですね。の問いかけに、
「そうなのよ。丈夫なのよ」と笑顔で応えてくれる。

明治の年寄りに仕込まれた大正生まれがどんどんお客様から身を引いかれてしまう。

昭和一桁もどんどんいなくなる。

さびしい。

でもお客様から教わった数々のシーンは、TONの胸のここにしっかり刻まれているよ。

足りる足りないはあるかもしれないけれど・・・
次の世代に伝えなきゃならない立場なんだよね。