夏生まれのくせに冬が好きなのは、春が大好きだからなのだろう。
外回りを生業にしていた頃は、冬の朝は辛い。言葉に表せないくらい。
一軒目を訪ねるときまで、断られて断られて門前払いされて、まためげずに次に行き、また次に行き、また次に行き、そうこうしているうちに昼を過ぎて、手は感覚がなくなって何時間立つだろうかと思うときにふと顔を上げると寒風にさらされている桜の小枝に目が釘付けになる。
雪が降ろうが、氷雨にあたろうが黒ずんだ枝の先っちょには、春の息吹を感じたら一気に咲こうと桜のつぼみをしっかり膨らませている。そんな姿を見ると、自分の足がさっきまでもう動来たくないよ。と意地を張っていたくせにすっと前に出る。
そんな経験を毎冬毎冬してきたものだから、この季節になると天を見る癖がついてしまった。
寒風のなかに・・・
春。