浅草のそら 探偵ごっこ。

高校時代の親友で、自転車仲間でもあったT.O君の事が気になって八方手を尽くしているが、全く状況がつかめない。探偵ならどうするのだろう。仕方ない50年も音信不通にしていたけど、困った時の母校。恐る恐る電話をかけてみることにした。あっけらかんと個人情報を教えてくれた(ことになるのかな)。ひょんなところから僅かではあるが情報が手に入った。嬉しい。

親子三人で暮らしていて、姉ちゃんがいて、父親がいて母親は早くに亡くして、ちょうど父親を亡くしていたTONとは境遇が良く似ていたこともあって気があった。

ちょうど今頃の時期、前職で庁内で事務をとっていた午後の時間に電話が入った。
聞き慣れないしゃがれた男の声「T君死んじゃったんだよ」

細々と聞きとれるかわからないほど、弱弱しく蚊の鳴くような誰が聞いても衰弱している声が電話の向こうからかすかに聞こえた。
知らない男からだった。名前を名乗ることもしない。T君という親友の名前は聞きとれたが思い浮かぶのは、彼のお父さんしかいなかった。

「T君のお父さんですか?」そう尋ねるしかなかった。
「T君死んじゃったんだよ」TONの質問をスル―して自分の言葉を繰り返すだけだった。
何がなんだかさっぱり要領を得ない。
「Tが死んだの?何で?」そう繰り返すのが精いっぱいだった。

終業の時間を待って、職場を飛び出した。本牧にある友人宅はひっそりしていた。
薄暗い部屋に入ると小さくなった白い箱に入った彼と生気を奪われて小さく萎んだ彼の父親がそこにいた。自死だった。頭のいいやつで土木関係の大手の会社に入り好きなように生きていた時に卒業後再開し、自転車道楽の道に引きずり込んだ。何を考えてか愛車を駆って能登あたりをソロでツーリングして帰宅後その行為に至ったのだと聞いた。なんで一言。。。一緒に走ろうでもいいじゃん。

父親と何を話したのか覚えていない。とにかく頭が真っ白になった。気がもとに戻るのに数週間要した・・・いや戻らなかったかもしれない。
生きるってこんな難しい事なのか?死ぬってこんな簡単な事なのか?朝起きた瞬間から同じ事を自問自答するのだ。
Tよお前が引き金にならなかったら横浜から離れるなんてなかったし、技術屋の仕事もそのまま続けていただろうよ。もう50年近く前の事なのに鮮明に思い出すのだから、TONの中ではまだまだ終わっていないのだろう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です