約束

久しぶりに…本当に久しぶりに
大島から船に乗って、Toおじいちゃんが来店してくださった。
2時を過ぎるとお店のピークを迎えるが、
人混みの中に懐かしい顔がニコニコ僕を見ていた。

通院のために東京に出て来られたのだが、
ぼくと交わした約束を果たす為、貴重な一日を使い、
曲がった腰で、杖を突きつつ来店してくださった。

彼は特攻隊の生き残りの一人。
彼の父親は、戦後生きていれば、戦争責任を追及された一人かもしれない。
現に家族でGHQの目から逃れる為に、逃避行をせねばならなかったという。

それだけにToおじいちゃんから伺う話は、文字に残せない、
生身の人物像と歴史を伝えてくれる。
いつもオフレコ談話なのだ。

海軍時代は180cm、90kgを超えていた巨体も、
今では僕よりも小さくなって、蘭の好きな善き翁である。

学徒出陣は、どんな思いで出兵したかを聞くが、
「今の平和の世の尺度では、戦争時のことは、はかれないよ。
同じ戦争へ行ったものでも、特攻はさらに尺度が違う。
だから、特攻帰りの人間は、理解してもらえないから、
しゃべらなくなるんだ」

と、漏らした言葉が「ずしん」と心に響いた。
でもぼくには、戦争前後の経緯、身内の話しとオフレコ話しをしてくださる。

「じゃあまたね」と曲がった腰を痛そうに伸ばしたとき、
すでに、外は夕暮れ時だった。

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