時の缶詰
もう失くしたと思って諦めていた写真が、本棚の奥に転がっていた本の間から偶然にも現れた。
下北半島を友人と二人で自転車で一周したときのものだ。
二十歳の頃だろうか・・・
相棒は5月の連休を利用して八戸に帰省するという。
なら、最後の一日は彼の家に帰着すればよい。
ちゃっかり泊まらせてもらうつもりもその算段の中に入っていた。
逆算して計画を練った。
素朴な民宿ばかりだったが、毎回の食事に出されるホヤの攻撃にはもう唸りっぱなしだった。
大間を過ぎてからはとにかく向かい風。
最北の道は手厳しい北風の洗礼だった。
横浜ではもうとっくに桜は散って暑いくらいの陽気だ。
「いくらか寒いかもょ」と注意をもらっていた。
がしかし、いくらなんでも寒すぎ。
全く忘れていたはずの場面なのに、いくらでも記憶が湧き上がるから不思議なものだと思う。
ボケて何も思い出せなくなったら、またこんな写真を引っ張り出して見たいと思う。