今のビルに店を引っ越してもう20数年。
当初からのテナントは、わが社ともう一社しか残っていない。
仲の良かった会社は、次々と出て行ってしまった。
どういうわけか、残った最後の一社・・・
何故かしら・・・この会社の社長らしき方とはどうにもこうにもうまが合わない(正しくは合わなかった)。
会社の車を店の前に平気で置いていくし、そもそもいつも苦虫を噛み潰しいて「にがいにがい」といつも言っている顔をして、挨拶をしても黙って通り過ぎる。「・・・・・・・・・」
こういう人間も世の中にいるんだ。
と、僕の心の中では新人類として年上にもかかわらず思うことにした。
が、突然人格が変わった。
ここ数年前から・・・
頭もポマードにオールバックがすっきりと丸刈り。
視覚的にも軽くなった。
いつものように挨拶をすると、鸚鵡返しで挨拶が返ってくる。
しかも、微笑みもプラスされて。
「ホー」
驚いたものだった。
そのうちまたもやしばらく顔を見なくなった。
あまりにも遭遇することがないので、ちょっと物足りなくなった。
苦虫を噛み潰したような表情でも、僕にとって一日のけじめになっていたのだから。
たまりかねて、昨日、苦虫の社員の女の子とエレベーターに同乗したのを幸いと思い、聞いてみた。
「苦虫さんはどうされましたか?最近顔を見ないので、もの足りません」
と心の声はこっちにおいておいて、
「社長さんしばらくお顔見ませんね?」 と。
ちょっと驚いたような、困ったような表情をされた。
「亡くなりました」
「え!!!」と、僕。
何か思い当たるような顔をされて、
「あ!そうだわ。今日が命日でしたゎ」
う~~~ん。
返す言葉が見つからなかった。
これも縁だね・・・・・・・
僕の左斜め上辺りに苦虫社長が「ニッ!」と、笑ったような気がした。