浅草のそら
浅草のそら
浅草のそら
今生
しばらくぶりに懐かしいお客様が訪ねてくださった。大事にしてきた念珠が切れてしまったと言うことだった。
ご夫婦仲が良く、いつもご一緒にいらして下さり、十三仏だったと思うが掛軸をお買い求め頂いた。拙い商品説明にも真剣に向かい合ってくださって、奥様と顔を見合わせながら、ほほ笑んで即決してくださったのをよく覚えている。うちが企画を行って招待状を出すと、いつも二人で「来たよ」とTONを会場の中から探して声をかけてくださっていた。
かれこれ30年近くになる。奥様一人は珍しい。
着江場三年前に他界されたと言う。その前に最愛のお嬢さまを50代で亡くされて、気落ちされたまま気力を失われたようだった。
ちょうどTONの木心の近い先輩が亡くなった報がその朝届いたばかりだったこともあって、なんともいたたまれない気持ちに落ち込んだ。いずれあちらの世界で再会するのだからそれまでさといつも思うようにしているのだが、それでもそれまでの寂しさは寂しさのままなのだ。
今生にあり縁もてし人はやはり大切にしたい。
お客様と出会えるのも一期一会だなと思った次第。