人の振り見て

夏風邪なんて40数年ぶりにひいた。小学校以来だ。
点滴をしていきなさいという。
これも高校生以来だから35年ぶり。

点滴に思いがけず(予測はしていたが)約一時間ベットに転がっていることになった、
やることはないから目をつぶっている。
つい周りの声が聞こえてくる。

「あのばあさんわがままで困っちゃうわよ」
「まだよまあだ!」

横を見ると80歳前後の老女が僕より2倍の量の点滴を受けていた。
なかな減らないから飽きてきたのだろう。
チューブをゆすって(もちろんその先は腕に刺さってい)早く落ちろー落ちろと振り回している。

気持ちはわかるが、ぞっとした。

看護婦さん(僕はあくまで看護婦さんと呼ぶ)のひそひそ話しが、
よりいっそう強く聞こえてくる。
気持ちはわかるけれど、ある意味でのサービス業でもあるなのだから、
躓かせてはいけない。

壁に耳ありで誰が聞いているかわからないのだ。

現に僕は知らぬ顔をしながらも聞いているのだから。
でも、足元は大丈夫かと思い返した。

香りゼロ

「匂いの少ないお線香ちょうだい」
「洋服に匂いがつきたくないから」

開口一番こう切り出して店に入ってこられる方。
解らないでもない。

さらに進んで
「匂いのないお線香ないの」
となる。

匂いのないお線香。

お線香とは、「香」すなわち「かおり」のベースを線状にしたものなのだ。
つまり
「かおりのしないかおり」はないのか、と聞いておられるのだ。

さてこれは困った。

お客様の希望とあらばでき得ることは何とかしたいと思うのだが、
「香のしない香」とはいかなる香なのか・・・

大事なことは、「香のしない」という意味には二通りの解釈があるということなのだ。
つまり、

1.文字通り無香料を意味する言葉

2.お墓やお寺で使う線香の匂い・・・特にお墓で「目痛いわね」といいながら使う杉っ葉線香のようなお線香をイメージして、そんな抹香臭いのはいやと言っているようなのである。

2.は、まず無理解からくる誤解と思っている。
だって現在のお線香はほとんどがフローラルや香木のピュアーな香が多いのだから、
香水かと見間違う香と出会えていないところから来る誤解と思っている。

1.については、実は聞き捨てならない言葉なのだ。

なぜなら、香があるから、香なのだ。
香がしなければ、「線」ないし「線火」となってしまう。
「線ください」
では格好にならないだろう。

「香はほとけさまのお食事」とは昔、年寄りによく聞かされた言葉だ。
初物を差し上げるのもやはり一番のものはご先祖様にという配慮と、
香の良いものを差し上げるということだと気づかされる。

不思議に仏前に差し上げたものをお下がりとしていただくと匂いが激減していることに以前気が付いた。
置いときゃ匂いもしなくなるわさ。と思う諸氏はそれでもよい。

自分なりになるほど香を食されるのだなと思ったのだからしかたない。
そしてお花も香が命。
キーワードは「香」なのだ。

そこへいくと、線香はまさに「香」の塊だ。

だから火をつけるだけの線香なら、ローソクにその座を譲ろう。

火が危ないと言うのなら、火を使わないペースト状でも、
石ころ状でもよいのではないか?とさえ思う。

少しでいいのです。
「いいなあ」「ほっとするね」と思う香を仏法僧の3本なんていわないから、
少量でよいので差し上げて欲しいなあと思うTONちゃんなのでありました。

ちなみに「香ゼロ、全く臭いません」、というお線香もありますょ。

※「臭う」と「香る」は違います。念のため。