保身

彼は間違いなく誰も文句の付けようのない正真正銘のヒーローだった。

社会の悪を見過ごせなかった。
強者が弱者を甚振る姿に耐えられなかった。絶対に許すことはできなかった。

いかなるときも弱者の側にいた。
勝ち目のない喧嘩とわかっても矛盾を感じれば、命がけで闘った。文字通り命をぽんと投げ出す覚悟をいついかなる場面でも、失うことはなかった。
ポーズではなくまさに命がけで。

そんな彼を民衆は徐々に理解し、彼のあとについた。いつしか彼をヒーローと祭り上げた。

彼は名声をほしいままにした。

いつしか強者の中にも彼の側に立つものも生まれた。
彼の側に立てば富と名声のおこぼれをいただけると打算する者たちも彼の回りに増えていった。
彼の助言は国の進路を決定する者たちまでもが参考にするほど強大なものにそして危険を孕むものにもなっていた。

彼が語る一言一句は、書き取られ心の指針とされていった。

きらびやかな名声と富の中で彼は美しい妻を迎え入れた。
子供にも恵まれた。
そこに保身が生まれた。

どうすればこの地位と名誉を継続することができるだろうか。
そう考えるようになったとき、彼の一言一句からは光が失われていった。失敗を恐れるようになった。
英断を下し犠牲を最小限に抑えることより、決定を、闘いを先延ばしすることを覚えた。

為政者をも恐れさせた名刀も、保身という錆びが刀身を覆いつくしていた。

冒険を恐れるヒーローに民衆は敏感に反応した。
一人また一人彼は自分たちの友ではないと気付き始めていった。
一度堰が切れると地に落ちる名声は止めようがなかった。

彼は何がそうさせたのか気付くよしもなかった。

と言う所で目が覚めたのだ。

枕元にあった封筒に「保身」とだけ書いて、夢の続きを見ようと目を瞑った。が、外の雨音に目が冴えて残念ながら第二部は見損なってしまった。

昨夜みた「20世紀少年」の影響が少なからずあるかもしれない・・・
単純なやつ。

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