数日前に夢の中で夢を見た。
体の調子が悪くて、入院している父親のように慕っていた恩師を訪ねた夢。
天台宗の坊さんなれど日韓の橋渡しのために文字通り命を賭して、有名寺院の住職の口もそんな暇はないと、ことごとくふってきた。
席を暖める暇もなく走り回ってこられたが、だましだまし抑えていた病がついに顕在化し入院されてしまっていたのだ。
朝鮮出兵で敵の耳を削いで持ち帰った耳塚、鼻を削いで持ち帰った鼻塚の霊を故国に戻した。日本が過去の戦争で戦利品として持ち帰り靖国神社に放置されていた北関大捷碑(韓国の国宝)を帰国させることに成功した。書くとめっぽう簡単なのだが、そこには日韓という深い溝だけではなく、国内にも官僚組織、右左の組織、法の壁、云々という恐ろしく高いハードルが待ち構えている。
一つ一つ尽力するたびに、自らの体を替わりに供えてきて傍から見ても、そのたびに犠牲を払っているように見えた。
そんな老師なのだが弱音など今までは微塵も口にされなかった。
珍しく沈んだ面持ちでポロリと一言。
「もうさよならかもしれないよ」
「そんな・・・」
はっと目が覚めた。
目を覚ました世界もまだ夢の中。
あわてて仲のよいおそば付きの方にこういう夢を見たんですよと話に行った。
「どうしたんだい」
僕の声を聞きつけたのか、奥から当の本人が病気の体を引きずるようにして現れた。
「大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫」とは答えず、よっこらしょっと僕の前で座り込まれた。
いつもなら正座をされるところが、足を伸ばしてぺたんと座る。
けれど、弱った体には座るという行為が難しい。
後ろにのけぞって倒れてしまいそうになる。
僕は慌てて相手の背中に自分の背中を当てて支えた。
背中のぬくもりがじわっと伝わってきた。
「ありがとね」
聞きなれた独特のイントネーションが耳に心地よかった。
でも同時にこれがお別れの挨拶なのかなあと心のどこかに思い浮かんだ。
今度は本当に目が覚めた。
不思議な感覚だった。
今日、電話をいただいて、鬼籍に入られたことを知らされた。