正月風景

食っちゃあ寝の正月は小学校までだったろうか。
正月から店をあけていると、正月気分なんてTONと感じる暇がない。

僕の子供の頃を思い出した。
年の暮れは母親の御節料理の仕込みのおこぼれが楽しみだった。

お米屋さんに注文していたお餅が30日くらいに家に届き、それを小さく切りそろえるのが僕の役割だった。
まだ柔らかいお餅を切るのがもったいなくて、指で弾力を楽しんでは母親に「遊ぶな!」としかられていた。
除夜の鐘を聞く間際までなにやら台所はせわしなかったのを記憶している。

母親は紅白を観ながらお煮しめや黒豆をことことやっていたし、空いた手でそばを茹でていた。

紅白に決着がついて、行く年来る年が始まる頃には、着物に着替えて、出かける支度。
0時になれば港からは気的の音が響き渡り新年の知らせが届く。

三が日は、どこの店も全て閉じていた。

だから道を歩くと空気は昨日とは全く異なった。
師走の慌ただしさは、うそのように消えて、これが同じ町なのかと子供心にも驚いたものだった。

ちょっと醤油がないからといっても、どこも店は空いていないのだから、隣家から借りて過ごすしか方法はなかった。

そういえば、正月元旦の楽しみは、朝風呂にあった。
いつもは3時からの風呂屋が、朝の6時から開いていた。

車も通らない、しんとした通りを風呂道具を持ってカラコロ歩いていくのが何とも風流だった。

暮れに仕込んだ御節ばかり来る日も来る日も食べていれば飽きが来る。
それでもどこも開いていないんだもの、食べ続けた。
母親も正月は何も作らなかった。

七草が待ち遠しかった。

正月あけは、いつも決まってカレーライスだった。
うまかった!実にうまかった。

コンビニが出現した頃から、正月の風物詩に変化をきたしたような気がする。

あんな正月風景って戻らないんだろうなあ・・・