お手伝い

今までどれだけの巡礼者をお送りしただろう・・・
白装束を身にまとうということは、
死装束を身にまとうということ。

巡礼のスタイルとしてその衣装くらいに思われている方も多いのは事実だ。
「死装束なんて縁起でもない。私は思わないわ」
と思おうが思われまいが、
出生は、れっきとして死出の旅立ちなのである。

だから、送る側からはそんな感傷を込めながら、
「いってらっしゃい」といつも見送る。

長いお付き合いのKさんもこれで何度目の巡礼だろうか。
80歳を超えた今も現役の整体の先生である。
60歳の頃に素行の悪い大男をひょいと投げ飛ばし、
喝采を浴びた。そんな武勇伝を持つ女傑でもある。

人一倍小さな体のどこにそんなエネルギーがあるのか、不思議でならない。
Kさんの祖父にあたる方は私財をなげうって寺を建立された。
「この子が男だったら坊主にしたのに」と終生おっしゃったと言う。
だから本人は、寺に入る代わりに滅私奉公を地で行なってきた。

そんなKさんを慕う患者さんは、休ませてはくれない。
年中無休のところは、僕と五十歩百歩の忙しさだが、
嬉々として文字通り走り回っている。

その中から時間をやりくりつけて四国も観音霊場も廻る。

正直えらいなあといつも見習う。
彼女ができるなら僕にもできないはずはなかろう・・・と。

だから、Kさんに頼まれると断れない。
ぼくも気を遣うでもなくこんないたずらをさせてもらう。

死出の装束なのだからと言うことで、
生前戒名を白衣の襟裏に書かせてもらう。

下手ながらもせめてものお手伝いだと思っている。

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